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Accrete Voice

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アクリートが対話で探るリアルとデジタルが融合するコミュニケーションの未来

ブロックチェーン技術でお金の移動コストと移動時間を限りなくゼロにする ――Digital Platformer代表取締役COO・松田一敬氏に聞く(1)

2022.09.05

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2022年4月5日 京都にて取材  構成:IT批評

アクリートは「コミュニケートするすべての人に、セキュアで最適なプラットフォームを提供する。」をミッションに事業を進めてきた。この先、リアルの経済圏がデジタル経済圏と連動していくなかで、セキュリティーとコミュニケーションのあるべき姿についてさまざまな視点から考えていきたい。今回は、日本で唯一の国際標準のブロックチェーンプラットフォームを展開しているソラミツ株式会社の共同創業者であり、Digital Platformer代表取締役COOの松田一敬氏に、ブロックチェーン技術と分散型IDの可能性についてお聞きした。

Profile

松田 一敬(まつだ いっけい) Digital Platformer株式会社代表取締役COO。ソラミツ株式会社共同創業者。産科遠隔診断のメロディー・インターナショナル取締役。2000年、北海道にて日本初の地方独立系VCである北海道VC設立。わが国の大学発ベンチャー第1号の設立、大学発ベンチャー上場第1号を手がけるといった、大学などの研究成果の事業化と地域活性化を得意とする。2011年SARR設立、京都にてKRPと共同でアクセラレータ運営。バイオ、遠隔医療、アニマルヘルス、自動運転&新交通システム、環境、DX等のスタートアップを支援。シリコンバレー・イスラエル・インド・フランスを拠点とするBenhamou Global VenturesにてJapan Advisory Partner。海外スタートアップの日本進出・日本スタータアップの海外進出も支援。大阪府豊能町のコンパクトスマートシティプラットフォームで、デジタル地域通貨プラットフォームの提供に取り組む。

札幌で日本初の大学発ベンチャーを作る

田中 まず、松田さんのご経歴を詳しくお話しいただきたいのですが、医学部を卒業されていてブロックチェーンの専門家であるというのは相当変わったキャリアですよね。

松田 北海道大学の医学部を卒業しているので、名刺には医学博士と書いています。でも僕は基本的に文系なんですね。大学を出てから、山一證券という会社に在籍していたのですが、山一が潰れた後に、北海道で日本初の独立系の地域キャピタルである「北海道ベンチャーキャピタル」を立ち上げました。今のベンチャーキャピタルの流れでいうと第一世代です。それが2000年ごろです。いわゆるITスタートアップの流れが、ちょうど2000年ぐらいから始まって、渋谷のBIT VALLEYが有名ですが、そのころ、僕は札幌でサッポロバレーという仕掛けに関わっていました。なぜ札幌なのかと言えば、日本のIT先進地域だったからです。マイコンのBASICを世界で最初につくったのは、実はMicrosoftではなく北大の山本強先生(現・北海道大学大学院情報科学研究科教授)という方でした。まだスタートアップという言葉もITベンチャーって言葉もなく、「ソフトハウス」って言っていたらしいのですが、ハドソンをはじめとして、新しい企業が次々に札幌で登場しました。マイコンの世界ではハドソンがもう断トツトップで、シャープやNECやソニーがコンピューター業界に入ってくる時に、みんな札幌のソフトハウスと組んだんですね。あるいは孫正義さんがハドソンの創業者である工藤裕司さん宅に居候していた時期もあり、現在も孫さんは工藤さんを恩人と呼んでいるそうです。そういうわけで、最初のマイコンも札幌だし、Voice over IP(VoIP)といわれる最初のインターネット電話も札幌だし、サイバートラストという会社がありますけど、あれも札幌でできた会社ですから。

田中 サイバートラストさんも札幌だったのですね。

松田 そうです。そうした企業が集積している札幌の面白さを広めようとSapporo Bizcafeという取り組みを地元のITベンチャーのメンバーと2000年からやっていました。もう一つは2000年に大学発ベンチャーが解禁になって、大学の先生が自分の研究成果の技術移転に伴うものだったら顧問とか役員になってもいい、株主になってもいいというルールができました。それをうけて日本で最初の大学発ベンチャーをつくったんです。今はどこでもありますけど、当時、日本初の、いわゆるITコミュニティーのコワーキングの仕組みを札幌でつくって、日本初の独立系のベンチャーキャピタルをつくって、日本初の大学発ベンチャーをつくったというのが僕のベースです。

田中 日本のITにおけるフロンティアだったのですね。

松田 そのあと2010年ぐらいに京都に来て、そこから先はベンチャーキャピタルではなく、大学の先生とか、企業のなかで芽が出ない研究者とか、そういう人たちの事業化をサポートすることをやっていました。ちょうど2015年ぐらいに、国際電気通信基礎技術研究所という関西文化学術研究都市の中核的な役割を果たしている研究機関がありまして、そこにアメリカ人のブロックチェーンの天才技術者がいて、彼が僕のところに相談に来て、一緒に会社つくろうということでソラミツを立ち上げました。それまでと違ったのは、単なる顧問やエンジェル投資家ではなくて、最初から共同経営者として関わったということですね。そのアメリカ人は日本が大好きで日本文化にも詳しく、日本に帰化しました。ソラミツは、その彼ともう一人トーマツ出身の30代の若者が中心なんですが、自分たちが開発しているブロックチェーンを世界のインフラにしたいけど、信用を勝ち取るためにベテランが必要だと言われて、共同創業者になって、取締役会長としてソラミツをスタートしたというのが経緯です。

世界標準のブロックチェーン技術でお金の移動コストと移動時間を限りなくゼロにする

田中 松田さんはそれまでブロックチェーンに関わってたんですか。

松田 いえ、正直いってまったく理解していませんでした。最初にブロックチェーンの話を僕に紹介してくれたのがソラミツのアドバイザーで、実は同じ高校の後輩なんです。彼から、次はブロックチェーンが来るからもっと勉強しなきゃ駄目だって怒られて。いろいろ聞いていると、要するにインターネットは情報革命だと。どういうことかというと、世界中に瞬時にただで情報を送ることができるというのが情報革命なんですね。そうすると情報の非対称性が一気に崩れます。さらにブロックチェーンは、世界中に瞬時にただで“価値のあるもの”を送ることができるようになる。今のインターネットではそれができない、それがブロックチェーンだ。だからもう一度革命が起きるんだと言われたんです。よく分からないけれど、革命が起きるんだったら面白そうだとジョインしました。ソラミツは最初から世界標準を目指していたのですが、Linux Foundationのブロックチェーン・コンソーシアムHyperldgerのインキュベーションプログラムで国際標準の一つに選ばれました。他に選ばれたのはIBMのFabricとインテルでした。国内ではまったく無名なのですが、海外では知名度が上がって、それがカンボジアの「バコン」という世界最初のCBDC(Central Bank Digital Currency:中央銀行デジタル通貨)につながったりとか*、結果的にはビジネスにはならなかったのですが、国連がブロックチェーンを使った難民へのモノのデリバリーに関わったりとかしました。

*カンボジア国立銀行(中央銀行)は2020年10月にスマホを使った小口決済システム「バコン」を導入した。ブロックチェーン技術を活用したシステムで、CBDCに類似した仕組み。バコンのシステム開発をソラミツが担当した。カンボジアの通貨であるリエル及びドルに対応した小口スマホ決済に必要なインフラを、末端のウォレット(財布)まで国と中央銀行が提供する。

田中 松田さんは、中央集権的なID発行者に依存せず、自分が自分であることや自分に関する情報を証明する仕組みである分散型IDにも取り組まれておられますね。

松田 中央集権型IDから分散型IDへの流れのなかで、最初に実用化されたのは難民に対するIDの付与だったんです。もともと難民には戸籍も住民票もありません。そこで国連がID2020と銘打ってバイオメトリクスIDの付与をバックアップして、Microsoftとアクセンチュアが技術面を担当しました。このIDはW3Cという国際標準に基づいてます。その時の国連担当者が日本人なんです。それでその辺の方たちと、ブロックチェーンで何ができるかを一緒に模索したりしていました。それが2016、17年ぐらいです。僕は技術者ではないんですが、ブロックチェーンがもたらす未来はなんだろうと考えて、たとえばクラウドファンディングのあり方を根本的に変えるんじゃないかとか言っていました。ただNFTがこんなにバズるとはまったく思っていませんでした。そこはちょっと読めていなかった部分なので、必ずしも先見の明があるわけではないんです。

田中 ソラミツ、そして今松田さんがCOOをなさっているDigital Platformerはブロックチェーンを使ってどんなことをやろうとしているんですか。

松田 もともと自分が地域発信のベンチャーキャピタルをやっていたので、どうすればいろんな人にお金を届けることができるんだろうということを考えていました。われわれは、「お金の移動コストと移動時間を限りなくゼロにする」というミッションを掲げています。たとえば、子どもがある芸術家さんを応援したいと思っても、何万円も出して絵が買えるわけではありませんよね。お小遣いで応援したいけど、100円を送る術がないわけです。だけどデジタル地域通貨や仮想通貨であれば、ノーコストで送れるようになります。そうなるとまったく新しい寄付文化が生まれる可能性があります。あるいは、地域で頑張っているスタートアップ企業があるとします。でもみんながみんなIPOをするわけではない。というか上場しない会社のほうが圧倒的に多いわけです。クラウドファンディングもありますが、結構な手数料を取られます。伝統産業をやっている人を応援したいなと思ったときに、大島紬に15万円は払えないけど、200円ぐらいで応援してあげたいと思う人は世の中にいっぱいいるわけです。そういうお金の回し方ができないかと思っています。難民支援や途上国支援もそこがネックになっています。国連の人と話したのですが、1万円寄付しても、現状では苦しんでいる本人や組織に届くのは1000円以下なんですね。そこをブロックチェーンの技術でどうにかしたい。欲しい人にどうやってお金を届けるか、出したい人にどうやってお金を出せるようにしてあげるかということのツールをつくっているのがソラミツです。それを日本で展開する会社として、Digital Platformerをつくりました。

取りまとめ型IDの共通プラットフォームを目指す

田中 ブロックチェーンを使ったサービスを提供している会社はいくらでもありますが、ブロックチェーンそのものをつくっている会社はそんなにありません。しかも世界標準のブロックチェーンをつくっているところが面白いですね。今、松田さんが言われたことは、要するに分配ですよね。時間と空間を飛んでデジタルでお金の分配の問題をどう解決していくかという感じですよね。

松田 おっしゃる通りです。たとえば税金の分配もそうですよね。一部の人たちから一部の人たちに力関係で回っていたりして、実は本来届けるべき人に届いていない。

田中 10万円の給付金問題もあったし、今度年金受給者の高齢者に臨時給付金として5000円配る案もあるようですが、それにかかる莫大な費用を考えたら、今おっしゃったようなことが簡単にできれば、みんなハッピーになれるわけですよね。

松田 分散型IDは、世界で先頭に立っているのはMicrosoftですけど、国内で自治体向けにきちんと提供しているのは、今のところDigital Platformerだけです。政府がやりたいのは、マイナンバーカードをみんなに持ってもらって、自分のIDがマイナンバーと紐付くかたちです。だけどマイナンバーカードって持ち歩くのはすごく抵抗がある。僕たちが取り組んでいるのは、スマホのなかにIDを格納して、デジタルIDを持ちましょうという仕組みです。たとえば携帯電話キャリアのIDが、自治体のIDに取って代わるのは無理なわけです。1社で国民全員をカバーできるわけがないですから。だけどその取りまとめ型のIDを分散型IDにすることはできます。今、実は大阪の豊能町でのスマートシティーフォーラムでそれをやろうとしています。最初の入り口はYahoo!IDでもドコモIDでもdアカウントでもいいのです。それを取りまとめた誰とも重複しないIDをつくってあげる。本人の同意が必要ですが、口座情報を提供していれば10万円問題も一気に解決します。そもそも所得がいくらあるかというのは住民税を払っているわけだから自治体は把握しています。それがデータベース化されていてID連携していて口座情報があったら、ぱっとソートをかければ、担当の人は、この人は10万円必要なのか必要でないのか全部分かるわけです。その共通プラットフォームを大阪でやろうとしています。各自治体が個々につくるのではなく、「リトル・エストニア型」って僕らは呼んでいますが、そこを共通プラットフォームにしたら自治体間のやりとりがすごく楽だし、管理コストもかからない。地域通貨があれば支払いはさらに楽になる。

田中 リアルとデジタルをつなぐということを僕もテーマとして持っているので、松田さんが大阪でやろうとしていることに本当に共感できます。それが日本だけではなく世界展開もやられている。実際にカンボジアの中央銀行で決済技術としても採用されています。アクリートは、リアルとデジタルをつなぐことがすごく大事だと思っているので、それを支える技術をお持ちであるというところに興味を惹かれました。

松田 そのID連携の部分では、実は日本以外はなかなかうまくいってないのが実情です。アクリートさんは、そこはしっかりアジア展開されているので、日本で先例をつくるのか海外で先例をつくるのかは別にして、ID連携のところでご一緒できたらいいなと思っています。

地域通貨もスケールアップできて互換性のあるシステムが必要

田中 もう一つ共感できるのは、マイクロ案件から徐々に経済圏を広げていこう、レギュレーションをつくっていこう、勉強していこうという姿勢です。国のプロジェクトがあって、そこに参加すれば、国が全部普及してくれるだろうと考えるのではなく、現場のニーズや課題感を実際に僕らが持っているテクノロジーとかツールを使って解決していくことが大事だと思っています。実はアクリートは沖縄の浦添市で、SMSでがん検診の受診率を高めるという非常にミニマムな課題解決にも取り組んでいます。市町村レベルでの課題解決があちこちで広がっていくことによって、いつの間にかメインになっているというプロセスが大事かなと思っています。

松田 日本の場合は、まさにナショナルプロジェクトで国が旗を振っても結局、今まで1個もうまくいってないからデジタル後進国なわけです。しかも重いシステムをつくるし、止まったら動かないし、スケールアップできない。だから僕らは地域通貨にしてもIDにしても、1回つくったらきちんとスケールアップしよう、隣とつながるようにしようと考えています。極端な話、共通プラットフォームを最初につくるのに5000万円かかったとしても、地方自治体用だったら500万プラスそれぞれの独自仕様加えても1000万円ぐらいでできるようになるはずです。これまでは、みんなそれぞれに5000万円かけて、しかも互換性がないシステムをつくってきました。それが大手のシンクタンクとかコンサルティングファームとかSIベンダーがやってきたことです。そこをなんとかしないと、いつまでたっても日本はデジタル後進国でしょう。

田中 もう一つ、松田さんの会社に興味を持ったのは、ブロックチェーンで分散型IDをやっていらっしゃったことです。僕はいつかSMSを使った認証がなくなるのではないかという危機感をこの10年間ずっと持っています。2010年代前半だと、たとえばユーザ名やパスワードを記載しないOSを使った認証のアイデアが出てきたり、多要素認証(MFA)の一環でFIDO2などのパスワードレス認証*が出てきたりして、駆逐されるのではないかという恐怖感があったのですが、なんだかんだ言いながら使い勝手の良さとか、誰にでも分かりやすい入り口の低さというところで、携帯電話番号認証が徐々に普及してきました。松田さんは、デジタルIDをどういうふうに定義されているんですか。
*パスワードレス認証:多要素認証 (MFA)の一種で、脆弱なパスワードを利用せず、生体認証やPINを利用して、クラウドサービスやWebサービスにログインする仕組み。FIDO2によるパスワードレス認証は、本人情報をデバイス内で確認した結果だけをサーバーに送るため、生体情報がネットワークに流れることがなく、またサーバーに保存されることがない。パスワード認証の課題となる「セキュリティ」として認証情報のリスクを低減することができる。

松田 デジタルIDは字義通りデジタルなIDで、別にdアカウントのIDだろうがYahoo!のIDだろうが端末のIDだろうが、なんでもデジタルIDだと思うんです。ポイントは、そのIDがどれだけ信用ができるものかということ。それといろんなIDが乱立してしまったときに、それを取りまとめるIDが必要ですよねということ。しかも取りまとめたIDが基本的に重複しないとか、その組成の仕方が国際標準でつくられていることが重要です。結局、日本でつくったIDが海外で使えないのでは話になりません。この取りまとめた統合IDをつくることは実は誰もやっていない。自治体さんは「このdアカウントでなんかサービスできませんか」と言うんですが、そしたら住民の3分の1しかカバーできない。それは残念ながらどのキャリアも無理なんです。僕たちはそのIDに紐付くベースのサービスを持っている会社ではなく、あくまでIDプラットフォームと地域通貨のプラットフォームを提供するだけの会社なので、逆に統合IDを提供できるのです。