ホーム

Accrete Voice

Accrete Voice

アクリートが対話で探るリアルとデジタルが融合するコミュニケーションの未来

デジタルとリアルのはざまのビジネスチャンス vol.1

2022.04.28

https://xb999594.xbiz.jp/accretevoice/wp-content/uploads/2022/06/mv01_r2.jpg,

取材・構成 土田修(IT批評編集部)

アクリート代表・田中優成は、2003年より総合商社トーメンにおいてSMS(ショートメッセージサービス)配信サービスに携わり、2010年より株式会社アクリートで、法人向けSMS配信事業を先駆けて開始した日本におけるSMS配信事業のパイオニアである。法人向けSMS配信では、多くの企業からユーザー認証問題の相談を受け、LINEを皮切りに、DeNA、グリー、ミクシィ、食べログ(カカクコム)などから寄せられた課題の解決に取り組んできた。SMS黎明期からこの事業に携わってきたアクリート代表・田中に、SMSの成り立ちとデジタルアイデンティティーとしての役割について訊いた。

Profile

株式会社アクリート代表取締役社長 田中 優成 (たなか ゆうせい) 1993年立命館大学国際関係学部卒業後、総合商社トーメン(現 豊田通商)入社。欧州や東南アジア、中東にて電子機器の輸出入・IT系の新規事業企画やベンチャー投資プロジェクトに携わる。2003年3月に、個人利用の目的で日本の携帯電話と海外のGSM端末でSMS(ショートメッセージサービス)の送受信が可能になるSMS配信事業をスタート。2006年6月、ITベンチャー企業であるインディゴへの事業譲渡をきっかけに、2007年に同社へ転籍、サービス&ソリューション事業部GMとして、個人向けSMS関連事業の運営やマイクロソフト社のパートナー認定された自社開発サーバソリューション製品の企画販売、RPA関連事業に従事。SMS関連事業では、2010年11月に法人向けSMS 配信サービス事業を立ち上げ、事業運営を担当。2014年5月にはSMS配信サービス事業を会社分割(新設分割)し、株式会社アクリート設立に参画すると共に非常勤取締役に就任。その後、2017年8月にインディゴよりアクリートに転籍、セールス&マーケティング部門ゼネラルマネージャー、専務取締役を経て、2019年1月に代表取締役社長に就任。迷惑メール対策推進協議会(総務省)やフィッシング対策協議会(経済産業省)の技術ワーキンググループのメンバーとして「迷惑メール白書」と「フィッシング白書」の執筆も行う。

https://www.accrete-inc.com/
SMSは「より確実に連絡を取りたい」手段として最適

私が代表を務める株式会社アクリート(以下、アクリート)が、法人向けSMS配信事業をスタートして10年余りが経ちます。スマホアプリでの会員登録の際やWebのログイン時に携帯電話番号に飛んでくるショートメッセージは、いまや年間10億通単位で流通しています。SMS配信に関する知見と技術力を蓄えることで、自社で開発した、大量かつ安定したSMS配信を行うことができる信頼性の高い大規模配信プラットフォームを構築してきました。大量のSMSを配信するサービスを中心に、グローバルIT企業、国内大手企業をはじめ、高品質・高安定性・高セキュリティを求める多数の企業様にご利用いただいています。
SMSは電話をかけなくてもテキストによる連絡ができる点と、メールよりも開封率が高い点がメリットになります。また、要件に応じて受信者が取捨選択をして返信ができるユーザーファーストの形になっている点が挙げられます。さらに携帯電話端末を選ばず使えますから送付先の制約が少なく、フィーチャーフォン(通称、ガラケー)の利用が多い高齢の方にもリーチできます。ただしSMSはメールよりもコストがかかります(リストプライスで一通あたり10~15円程度)。このためSMSをマーケティング目的で不特定多数に送付するのはおすすめできませんが、防災目的で一斉に送付するとか、会員登録時の手続きの一環で電話番号確認のために送付するような「より確実に連絡をとりたい」手段としては最適であると考えています。

2003年の4月からスタートした小さなゲートウェイサービス

私のビジネスマンとしてのキャリアと日本におけるSMSの歩みはほぼオーバーラップしています。
私は総合商社トーメン(現豊田通商)時代に、東南アジアと中東向けに家電やエレクトロニクス関連のコンポーネントの輸出を担当していました。モバイル向けコンテンツサービスとの出会いは、1995年ごろに、インドネシアのジャカルタにあるラジオ局とのコラボプロジェクトで、カシオ計算機のポケベルを使った情報配信を行ったことが最初です。
1999年2月、日本では携帯電話を使ったインターネットサービスであるi-modeがスタートし成功を収めていました。2000年から2001年かけて同じようなことを東南アジアでできないだろうか、日本で流行っている壁紙や着メロを海外に輸出できないかと考え、日本のi-modeサービスなどにモバイルコンテンツを提供しているコンテンツプロバイダーと組んでモノクロ液晶のGSM携帯電話向け壁紙ダウンロードのサービスをタイやフィリピンの携帯電話事業者向けに始めました。そのとき初めてSMSの存在を知りました。海外にはi-modeサービスはないため、SMSを使って壁紙や着メロの購入ダウンロードをしていたのです。このサービスは有料で、利用料としてSMSの通信費用とアイコンのダウンロード費用がプリペイド携帯の残高から引かれる仕組みでした。
一方、欧米ではモバイルペイメントが流行りはじめていました。携帯系のコンテンツサービスがヨーロッパで盛んだったのです。そこで、アイルランドやイギリス、ドイツのベンチャー企業を回ったりしていました。エリクソン、ノキアが全盛の頃です。SMSを使ったコンテンツサービスに商社として絡めないかということを模索していたわけです。
その当時、日本ではSMSと技術的には同様のものがいくつかありました。Cメールやスカイメールなどが、同一事業者内でのみ使えるテキストメッセージサービスとして存在していました。
トーメンは通信プラントを輸出していた関係で、シンガポールテレコム系の携帯電話事業者と取引をしていました。あるとき、その会社のCTOから「日本にSMSでメッセージを送りたいのだが、なんとかならないか」という相談があり、KDDIと相談し国内のEメールと海外のSMSを変換するゲートウェイサービスを2003年の2月からスタートしました。主に在日外国人向けのモバイルサービスでしたから、小さい規模の事業でしたが、チャレンジさせていただいた会社には感謝しております。このチャレンジなくして、今のアクリートは存在しないからです。
その後、この事業は、トーメン・豊田通商の合併に伴う事業再編で、SMSサービスはITベンチャーのインディゴに事業譲渡されるという経緯を辿り、私も後からインディゴに参画することになります。

2010年スタート、日本で初めて携帯電話番号を用いた認証サービス

2007年に初代iPhoneが登場し、2008年7月にはソフトバンクからの販売が開始され、世界中どこにいてもアプリ同士で音声通話もテキストメッセージも無料でできる時代が到来しました。2009年にインディゴ社内でスマホ時代に合わせて事業の再編をしようということになり、SMSを法人向けサービスに特化することになりました。そこで、これからスマートフォンを使って普及するサービスは何かと考えていると、海外では本人確認にSMSを利用していることに思い当たりました。当時はまだブラウザ経由のアプリ(Webアプリ)が多かったのですが、アプリのユニークユーザーをどうやって見極めるのか、つまり本人確認をどうするのかという議論があり、海外ではSMSを使って携帯電話番号とWebアプリのIDを紐づけるということをやっていたのです。国内でもスマートフォンでのアプリが普及すればニーズが顕在化するだろうと考えていました。
法人企業向けに、日本や海外の携帯電話番号にSMSを配信するサービスを始めたのは、2010年12月になります。その後、すでに行っていた個人向けサービスである、世界中の個人の携帯電話番号にSMSを配信するサービスを法人向けに転換して、ある国内企業向けに携帯電話番号の認証サービスを始めたのは2011年6月のことです。アプリをダウンロードしたときにSMSで電話番号の持ち主に確認のメッセージが届くという二要素認証を始めたのです。携帯電話番号と会員IDを紐付けて、実在性を確認するための手段として携帯電話番号網を使って、ワンタイムパスワードを電話番号に送ります。
海外には似たようなサービスがありましたが、国内では類似のサービスがなく、日本初のサービスとなりました。

二段階認証にSMSを利用した最初の事例はLINEだった

2011年5月の連休明けに韓国のNaverという会社の日本法人から連絡が来て、「アプリをつくっているのだが、1カ月後にリリースする。携帯電話番号確認に、御社のサービスが使えないか?」という打診がありました。このアプリは名称を「LINE」と言いました。LINEの会員登録時における申請者の携帯電話番号保有の確認手段としてSMSを使いたいというご相談でした。これが日本における法人向けSMS いわゆるA2P(Application-to-Person)という利用において、本人確認としての二段階認証にSMSを利用した最初の事例になります。このSMS利用を当時は『携帯電話番号認証』サービスと呼んでおりました。
当初は、数百万件もアプリがダウンロードされるサービスの認証で使われるとは想像しておりませんでしたが、テレビCMなどの効果もあり、初日で1時間に数万件がダウンロードされ認証目的のSMSが配信される事態になりました。その後LINEは、半年間で1000万件ダウンロードされる、という姿を目の当たりにし、スマートフォン向けのアプリサービスの可能性にとても驚愕と刺激を受けたことを鮮明に覚えています。
LINEの利用事例を見て「うちのアプリやWebサービスにも会員IDと携帯電話番号を紐づけたい」という企業が続々と現れたのはすぐでした。申請したIDと物理的な電話を紐付けることは多要素、多経路での認証になりますし、インターネット網と異なり、携帯電話網はハッキングが容易ではありません。インディゴでのこのSMS事業部門が現在のアクリートになります。

もしものときにこそ重要なサービスとして

2011年にLINEがあっという間に普及した背景には、その年に起きた東日本大震災があると、私は思います。これはLINEの開発メンバーの方の後日談で語られていますが、2010年末にスタートしたLINEプロジェクトは、当初、「メッセージングと写真共有」の2つの方向性があり、写真共有のアプリを先にリリースするつもりで開発を進めていたそうですが、東日本大震災でメッセージングのアプリが日本で求められていると判断し、メッセージングアプリの開発に切り替わったそうです。
震災の最中、電話がつながらないなか、インターネットを介したパケット通信はつながったという経験をした人が多くいました。連絡を取る手段として、いくつかの手段は持っておくべきだという認識が、LINEの普及をあと押したのだと思います。同年10月に開始したスタンプ・無料通話機能などコンシューマー受けするような仕組みも優れていたと思います。
私も当時は、ユーザーの意識が変わり、いろんな手段で連絡方法を確保しておきたいという、コミュニケーションの多様化へのニーズが高まったことをひしひしと感じていました。
SMSの認知という意味では、アプリサービスが普及しない限りは限界があります。その点で、LINEの普及発展はとても大きかったと言えます。
実は法人サービスの最初のユーザーはLINEではなくJTBでした。2010年の12月にスタートしたJTBの「MoneyT」というサービスです。VISAデビットがちょうど解禁された頃で、主なユーザーは海外に留学中の子弟です。クレジットカードを持たせると使いすぎてしまう恐れがありますが、デビットカードであれば、口座に入金がない限り使うことができません。ただし、いつ入金があったかわからないので、それをお知らせするサービスとしてSMSを使いたいということで始まりました。その頃、海外の携帯電話にはEメールがありませんでしたので、SMSに白羽の矢が立ったというわけです。
もともと私が、海外の携帯電話会社とビジネスをしていたという経験もアドバンテージになりました。LINEのケースもそうです。欧州や中東、東南アジアや南米など、LINEは海外展開を視野に入れていたので、私どもに声がかかったのだと思います。

SMS普及の歴史というのは、セキュリティ強化の歴史

2012年5月にコンプガチャ問題が世間で騒がれました。
ガチャはゲーム内の仮想通貨を使います。仮想通貨の購入にはお金が必要で、後日、携帯電話の使用料やあらかじめ登録したクレジットカードに請求される後払いの形になっています。このため、未成年者が親のクレジットカードまで使い込むケースも出てきており、消費者庁に苦情が多数寄せられていた問題です。
ゲームのプレーヤーは、ゲーム上のレアカードやレアアイテムがネット上で高額で買い取られることに気づき、無料でつくれるメールアドレスでゲームIDアカウントをたくさんつくったわけです。1ユーザー1IDのはずだったのが、1ユーザーが複数のIDを持つようになり、危機感を抱いた事業者は、複数アカウント防止にSMS認証を採用することにしたのです。この問題もSMSの普及に拍車をかけたと思います。
SMSの普及の歴史というのは、セキュリティ強化と軌を一にしています。本人確認しかり、複数アカウント防止しかりです。そういう意味では、日本でのデジタル・アイデンティティーが未発達な状況で、セキュリティ対策に先陣を切って取り組んできたという自負があります。

法律に裏打ちされた携帯電話番号とセキュリティ・リスク対策

プリペイド携帯が犯罪に使われるという背景から、平成18年4月1日より携帯電話の不正利用防止法が整備され、犯罪に携帯電話等が悪用されるのを防ぐことを狙いとして携帯電話事業者は、携帯電話等の契約時及び譲渡時等に、音声回線を伴う契約をする際には、免許証かパスポートかマイナンバーカードなどにより契約者の本人確認が義務付けられています。つまり、電話回線を契約する時点で、かなり厳しい本人確認が求められるようになり、電話番号は本人認証としては精度の高いIDになりました。サービサーにとってもユーザーにとっても、SMSによる本人認証はリスク対策として一つの有効な手段だと考えられています。
私たちが手がけるSMSサービスは、震災や不正利用事件などが起きるたびに注目を集めるところがあります。エンターテイメントのサービスとは違って、必要性がないと省みられない面があります。
食べログ問題も思い出されます。いわゆるステルスマーケティング問題です。一人が複数アカウントで投稿していたことが社会問題となりました。そこで食べログから複数アカウント対策として、私たちに声がかかりました。社会問題が起きるたびにSMSの認知度が上がっていくという構図です。
実は、エンターテイメントの伴うサービスという方向性を模索した時期もありました。2006年ごろ、アメリカやブラジルでは、テレビのリアリティ番組やアイドル発掘番組を見ている視聴者がSMSを使って気に入った出演者に投票する「テレビボーティング」といわれるシステムで実現していました。インターネットは匿名性が担保されるのが特徴ですが、逆に実在性を担保するのが難しい。SMSは実在性を担保できるので成立していたのです。日本で同じようなことができないかと考えていたのですが、これは実現しませんでした。

デジタルとリアルのはざまにこそビジネスチャンスがある

私どもは新事業領域として認証系サービスとAIを活用したコミュニケーションの最適化を研究しています。これまで培ってきたノウハウと新しく取り入れるテクノロジーを組み合わせて次の3つのポイントで成長戦略を描いています。
一つ目が、「リアル×デジタル」です。2021年10月28日にFacebookが、メタバース社会の普及を意識して、社名を「Meta(メタ)」に変更したニュースは驚きを持って受け止められましたが、XR(クロスリアリティ)が普及していく社会において、デジタルとリアルのあいだにこそビジネスチャンスが存在し、リアルとデジタルを繋ぐサービスの重要度が増すと判断しているからです。
私はデジタルコミュニケーションがすべてであるとは考えていません。本当にその人に確実に情報を届けるには、もしかしたら郵便がいいかもしれないし、訪問がいいのかもしれない。送り手ファーストでもあり、受け手ファーストでもあるかたちでデジタルとリアルのコミュニケーションを融合し、最適化していくのが「リアル×デジタル」の目的です。

二つ目が、「セキュリティ×コミュニケ-ション」です。企業の利用状況に合わせて「セキュリティ」と「コミュニケーション」の領域を強化していきます。
そして三つ目が、「スタディ×スケールアップ」です。これまでの10年間のノウハウと数千社の顧客基盤をベースにスタディとスケールアップの2軸で成長機会を狙っていきます。

コミュニケーションの手段だけでなく信頼性をDXする

アクリートは、「デジタル社会に、リアルな絆を。」というビジョンを掲げていますが、私はデジタルとリアルのはざまが好きなのです。最終的には血の通った人間がコミュニケーション(情報を送ったり受けとったり)しているということは忘れたくありません。
一方で情報環境はますますデジタル化されていきます。デジタル・コミュニケーションとリアル・コミュニケーションがうまく融合するために不可欠なのが「信頼性」です。情報の送信者と受信者の間の信用をいかにして担保するのか。リアルな人間と、サービスを提供する企業や自治体のあいだに横たわるコミュニケーションという行為における「信頼性」をデジタル技術でどのようにして担保していくのかが問われています。
ユーザーがいちいち判断しなくても、私たちサービサーが信用を担保し、信頼性を確保することができれば、人や企業は本来のコミュニケーションにもっとフォーカスできるのではないかと考えています。
この視点で「セキュリティ×コミュニケーション」の領域における課題を精査し用途開発や保有特許・技術を組み合わせて新たな基盤構築の戦略を推進していく。これによって「セキュリティ」と「コミュニケーション」の信頼性を担保していきます。
私は、コミュニケーション手段のDXもさることながら、コミュニケーションの信頼性のDXこそが重要だと考えています。そこはデジタルアイデンティティーがどうあるべきなのかという議論とも絡んできます。いろんな認証手段がありますが、最終的にはユーザーフレンドリーでなければいけないし、利便性を伴わなければならない。面倒くさいことは誰しも好みませんから、利便性とセキュリティのトレードオフの関係をどううまくバランスを取るのかがポイントになります。

100年後につながる「安心・安全・信頼」のサービスへの取り組みを目指す

私たち人間が処理している情報の多様さには、いまだAIは追いついていません。リアルなコミュニケーションのアドバンテージもそこにあります。対面によって得られる表情やしぐさや言葉遣いなど、いろんな情報を駆使しながらこの人は信用できるとか信用できないとか判断していると思うのですね。その辺はデジタルとリアルのはざまで私たちが信用について補完できるサービスがあるのではないかと模索しています。そうしたニーズは50年、100年経っても変わらないと思っています。ただ、利用するテクノロジーは変わっていくでしょう。